三芳町の上富地区、所沢市の中富・下富地区に広がる地域で、総面積は1400ヘクタールに及びます。この地は、開拓以前は茅などが広がる原野でしたが、今から約310年前の元禄7年に川越藩主柳沢吉保が新田開発に着手しました。この背景には、食糧増産・収税増額などの目的がありました。
屋敷地-耕地-平地林が一体となった循環型農業はこの地域を豊かにし、現代まで続く礎を築いたといえます。
町の最上位行政計画であり、計画的かつ効率的な長期にわたる行政運営の指針を示す、「第4次総合振興計画」では、上富地区について、農業の育成、生産基盤の整備、歴史文化の保護・継承、自然環境の保全と景観形成などの方針が記されています。また、過去40年間の計画を振り返ってみても、「農業」は、町にとって重要な産業と位置づけられていることがわかります。
まず「外部機関による景観評価」として、三富新田は、2009年、4,474件の応募の中から「景観」「生物多様性」「人の営み」を基準にして選出する「にほんの里100選」や、2005年に愛・地球博パートナーシップ事業として行われた「人と自然が織りなす日本の風景100選」に選ばれており、その景観が外部機関から高く評価されています。
これは、三富特有の地割や緑豊かな平地林などの景観のほかに、循環型農業が環境やエコといった現代のトレンドにマッチしていたことも大きな選出要因であると考えられます。
次に専門家が認める価値については、三富開拓地割遺跡として埼玉県の指定旧跡になっていることなど、江戸時代から300年以上も続いてきた歴史的・文化的な価値があげられます。
また、開拓者によって平地林の木々が植えられ、現在まで維持されてきたということで、水の得にくかった三富新田の地で、根が地下水を吸い上げ、地下水位が上昇したことが指摘されています。砂漠化の進む地域で国際協力事業団(JICA)が行う技術指導の方法は、耕地をはさむように屋敷林と雑木林をつくるという、三富新田の知恵が活かされています。こうした環境創造としての価値が2つ目にあげられます。
そして、大都市近郊農地として、生産高はもちろんのこと、青年農業従事者の割合や経営面でも県内トップクラスであるという「農業」としての価値もあげられます。
3つ目は地元の認識です。平成22年に実施した「三芳町住民意識調査」では、三芳町の誇り・宝の2位に三富新田のシンボル的存在でもある雑木林、3位に三富新田が挙がっています。
平成24年度に実施された、埼玉県民調査の埼玉県に定住する理由でも、3番目に「自然環境がよいから」が挙げられています。
平成20年から21年にかけて行われた上富・北永井の農家さん対象のアンケートでは、地域の宝・誇り・大事な物として、継承に取り組みたいと答えられたものが、上富地区に関係する項目について、図の通り多く挙げられています。
また、私たちが行ったヒアリング調査においても、農家さん自身の三富新田で農業を続けることへの誇りや、魅力ある場所づくりへの思いを伺うことができました。
このように、多方面から三富新田の価値が評価されていること、地元でもそれを誇りと認識していることが明らかになりました。
三富新田は、そこに住む人々の営みである循環型農業により、その歴史的自然景観が維持されてきました。屋敷地、耕地、平地林にはすべて役割があります。林は防風に役立ち、燃料や生活用品となり、雑木林の落ち葉は野菜を育てるための肥料となります。生活に必要なものとしてこの土地利用のスタイルが維持されてきた、残ってきたといえますが、 生活をするために、農業を営むために、この膨大な敷地は必ずしも必要なものとは言えなくなってきています。
右上図は上富地区の農地面積を示す地図です。昭和36年の農地面積を100とすると平成9年は84であり、それほど大きく減少していません。
下図は、上富地区の雑木林の分布図です。青く塗られた部分が雑木林を示していますが、一目みただけでかなりの林が減少していることがわかり、また、まとまって雑木林が残っている土地がほとんど無いことがわかります。
雑木林の面積は、昭和27年より徐々に雑木林は減少しており、昭和42年~52年に最も減少面積が大きく、近年の減少率も小さくはありません。(昭和48年に関越自動車道の開通)
雑木林を維持、管理、また活用するにはかなりの労力がかかり、さらには高い相続税がかかります。安定した農業経営のために、使わない土地を倉庫などに活用したり、売却されたりすることもあります。結果として以前のような"三富らしい"とされる景観は失われつつあります。
循環型農業で使用される雑木林の維持、管理にどのような苦労があるのか。私たちも実際に落ち葉掃きを体験しました。
市民研究員の林です。
実際に、落ち葉掃き体験に参加してきました。
落ち葉掃きは、平地林の維持活動のために必要な活動であり、現在その多くがボランティアの協力により継続されています。
実際に活動に参加したことで、落ち葉と野菜、また落ち葉と循環型農業がつながっているということをあらためて実感することができました。
このように、落ち葉掃きによって三富の循環型農業は成り立っており、その循環型農業によって三富新田の景観は形作られています。落ち葉掃き、循環型農業、三富新田の景観の三つは相互に関連しあっています。落ち葉掃きは三富新田の景観にかかわる大切な活動であり、また農業文化を守るため、平地林を守るためにも必要な活動です。このような活動に参加できたことは有意義であり、循環型農業の保全の意義、重要性についても考えさせられる機会になったと思います。
三芳町ではこの歴史的自然景観が失われているという事実を大きな課題ととらえ、これまでさまざまな提案がされてきました。しかし、ほとんどの提案施策が進んでおらず、結果として従来あった残すべき地割の景観はどんどん無くなってきています。そこで、私達はこの価値ある景観を残し、活力ある地域とする事を目的に、実現可能な施策を提案していくべきだと考えます。
私たちは、この価値ある景観を必ず残すために、「どの土地・エリアを」「どのような方法」で守っていくのかを地域の方々と共に考えていく必要があると考えます。
私たちが提案する施策は3つです。1つは、三富新田に現存する地割景観を損なわない形で維持していくために、町と、その土地の所有者を含めた地域の代表者たちが中心になって活動していくこと、すなわち地域の方々との協働です。2つ目は、三富新田の歴史的な価値や自然景観について情報を集約し発信する場、その土地を守っていく人々が集い、また守っていく人々を育てる場として、拠点を整備する必要があると考え、この二つを大きな施策の柱としました。
そのためには、町全体で三富新田を守っていく、という意識醸成のためのリーダーとなる人、そして実際に守っていく人を育てることが必要であり、この二つの柱を支える土台となる3つ目の施策として、まず人材育成をしていくべきだと考えました。
土台となる人材育成では、
などが考えられます。
人材育成は、座学に限らず現地での体験活動を中心に行うことで学びを深めることが望ましいと考えます。リーダーによる自然を使ったレクリエーションを学校と連携して行ったり、三富地域を守りたいという意識の高い人を募ってボランティアの育成を行ったり、地割景観を無理なく継続させるために効果的な循環型農業を推進するための循環型農業従事者研修を行ったりすることが考えられます。
現在の町の職員研修では、1年目に全町の施設巡りや福祉施設体験を行いますが、三富新田の歴史を学んだり農業体験をしたりすることがありません。まず、職員自らがリーダーとしてふさわしい知識・経験を身につける必要があります。具体的には、講義や落ち葉掃きなどの体験により三富新田を学びつつ、所沢市や県との情報交換を行うことで、より効果的な研修になると思われます。
三富新田の景観を残していくためには、循環型農業を維持していくことも必要です。
そのための従事者育成として、埼玉県が農業大学校卒業程度の一定レベルの研修を修了した新規農業参入希望者に対し、実践研修・農地確保・資金相談等を行っている「明日の農業担い手育成塾」と連携して循環型農業推進を図っていくことが考えられます。農業支援の場に循環型農業の視察を盛り込むなどし、循環型農業への認識を高めることもできるのではないでしょうか。他にも、新たに循環型農業に取り組みたい人と共に、三富式の循環型農業を広め、雑木林の維持、並びに農作物の付加価値を高めていったり、農家だけでは難しい雑木林の維持について、それを支える担い手を育成していったりすることが求められます。
ここでの「協働」のテーマは、三富新田の地割景観を保全するための土地・エリアを設定し、またその土地・エリアをどのように保全するか、ということです。三富新田の地割は私有地のため、町で保全を図るとしても、地権者との合意形成が必要になります。そこで、協働の1つにワークショップ開催が考えられます。ワークショップを開催して議論を積み重ねることで、三富新田保全を三芳町民全体で考えます。さらに、地域・地区によって土地利用を面的に規制していくゾーニングという手法をとるかどうかの検討も必要です。
下図は、「スマートインターチェンジを活用した地域活性化に関する調査研究」で提案されたものですが、私たちは、土地所有者との合意形成を基にゾーニングを決めることが望ましいと考えています。
協働の活動の中で、守るべき土地・エリアを設定し、その次に必要となるのがどのような方法で景観を維持するかということです。その方法については、協働活動の中で検討していく課題ですが、ここでは、そのための方法の一つとして景観条例について紹介します。
景観条例は地域の特性を生かした良好な景観を形成することを目的としています。多くの景観条例は、主に自然環境の保全や伝統的な街並みの維持のために制定されています。
日本で最初にできた景観条例は石川県金沢市が制定した「伝統環境保存条例」だとされています。この条例では「伝統環境保存区域」が決められていて、武家屋敷群や茶屋街などが保存区域となっています。保存区域となったところは景観維持のための助成制度があり、その助成金は生垣の整備や歴史的建造物の修復費用の一部を賄っています。金沢市では、この条例の他にも環境保全を目的にした条例がいくつかあります。それぞれの条例ごとに保存区域を定めており、宅地造成や広告物の設置をする際には届出や許可を必要とするとした「規制」を行っています。三芳町でも「伝統環境」である三富新田の地割景観を保全していくために、どのような「規制」を行うべきかを協働事業として議論していく必要があります。ただし、景観条例を制定することによって利害関係者が大きな損失を被る可能性もあります。景観条例の制定に関しては慎重な検討が必要になりますし、制定にあたっては様々な立場から意見を出していただき、三芳町の地域性に合った景観条例を策定するべきでしょう。
拠点の役割として、PRの場と、人と人とを「つなぐ」場が挙げられます。PRの面としては、観光客への情報提供をする案内所としての役割や、買い物や食事の場の役割、歴史を学ぶ場として資料館などが考えられます。
人と人を「つなぐ」場としては、落ち葉掃きなどのイベントや農業体験で農家と町内外からのボランティアをつないだりすることが挙げられます。
拠点整備について考える際に、考慮しなくてはならないのが「上富地域拠点整備方針」です。三芳町第4次総合振興計画の中において、三富地域は農業センターを中心とした拠点ゾーンが設定されているにもかかわらず整備が一向に進んでいないという現状を受けて、昨年11月に三芳町より示されたものです。この整備基本方針は第五次総合振興計画策定において位置づけられ、その終期年度となる12年後の平成37年(2025年)までの整備を目指すものとされています。
その方針の中では、地域拠点として想定される施設機能が6つに分けて示されています。
この拠点整備方針では、自治体の施設が担う多くの役割が挙げられていますが、こういった機能を全て盛り込むことで、かえって特徴のないものになってしまう可能性もあります。そのため、三富新田にふさわしい上富拠点施設となるよう、より磨きをかける必要があります。
拠点施設の利用者は住民だけでなく、町外からの来訪者も想定されます。その点を意識しながら、住民の意見を取り入れ、何が優先されるべき機能なのか検討することが必要です。
これらを踏まえ、来年度に実施すべきものとして、下記図の通り提案します。
研修により人材を育成し、協働や拠点整備に結びつけることで、住民や町職員、事業者の方々を含めた町全体に三富新田を守りたいという意識が芽生え、醸成されます。これにより、自発的に行動を起こす人が増え、結果、三富新田の価値である「歴史的自然景観」が守られていくと考えられるのではないでしょうか。
政策推進室/政策推進担当
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